インターネット講座2004 「宇宙から素粒子へ」

第1回 序論:宇宙から素粒子への階層構造
担当:
神田展行

はじめに

閲覧について

目次

  1. 宇宙から素粒子のためのスケール
    1. 長さでみる宇宙から素粒子
    2. 重さでみる宇宙から素粒子
    3. 質量とエネルギー
    4. 代表的な定数
  2. 物質にはたらく力
    1. 4つの基本相互作用
  3. 初期宇宙と相互作用の進化

内容理解へのアドバイス

講座の本題に入る前に、今回の講座の理解のポイントを触れておきます。
いちばん最初に、大きさや重さといったものを 表すための単位と、おおよそのスケールを説明します。 これから宇宙や物質、素粒子の議論をするにあたって、 大きさや重さについての具体的な数字をあげてイメージをつかまなければ、かなり曖昧模糊とした 理解にとどまってしまいます。例えば、単に「宇宙は大きい」ではなく、どのくらい大きいという 量的なことを考えてみてください。
次に物質間にはたらく力について説明しています。ここで働く「力」のことを「相互作用」という すこし耳慣れないであろう言葉であらわしてゆきますが、こうした専門用語のうちいくらかは、 そんなものだとおもってとりあえず聞いてください。このような用語の例が、このあと何度かでてくると おもいます。どうして「力」でなく「相互作用」というのか、どうして「重さ」でなく「質量」と いうのかなどは、議論が進むうちに理由がわかってくると思います。
最後に、初期宇宙と相互作用の進化という話ですが、これは講座第2回でも触れることになると思います。 今回は、宇宙の初期の進化の様子に、極微の現象を探求する素粒子論が密接な関係があることがポイントです。

講義 序論:宇宙から素粒子への階層構造

宇宙から素粒子のためのスケール

我々の世界は様々な物質から成り立っていますが、それらが分子、原子といった単位の粒子の集まりであることはよく知られています。

原子の構造(クリックで拡大します)

(Contemporary Physics Education Project (CPEP)より引用)
宇宙や物質、素粒子の大きさ(長さ)、重さはどのくらいなのでしょうか? これらを知ることは、我々の世界の構造について、階層的に理解することに繋がります。

長さでみる宇宙から素粒子

まず、長さのスケールをとりあげます。長さの単位はメートル[m]です。
長さのスケール図
(クリックで拡大します)

我々人間の大きさが、おおよそ 1 m 程度です。大型の生物でも、101 m程度の大きさです。 地球の半径は約6400km = 6.4×106 m です。地球と月の間の距離が平均384400 km ~ 3.9×108 mです。 太陽の赤道半径はこれより大きく、696000 km ~ 7×108 mくらいです。太陽をまわる地球の 公転軌道の長半径を 1天文単位(AU; Astoronomical Unit)= 1.4959×1011 mと定義します。 太陽と地球の距離は、地球の大きさの5桁もおおきいのです 。 太陽系の大きさは、太陽から冥王星ま での距離とすると6×1012 mほどです。先日みつかったセドナは、太陽から最大1.3×1013 mも離れるそうです。

しかしこれでも、恒星間距離のスケールにくらべれば短いものです。 光が1年間かかって進む距離を1光年(ly; light year)= 0.94×1016 mと定義しますが、太陽に最も近い恒星までは4.31 lyです。 銀河の恒星間の平均的な距離を1パーセック(pc)=3.26ly=3×1016 mとしています。 我々の銀河系の直径はだいたい1021 mです。となりのアンドロメダ銀河まで2.3×1022 m程度です。 銀河間のような遠方の天体までの距離については推定の誤差が非常に大きくなります。宇宙の大きさはおおむね1027 m くらいです。

今度は小さいほうへ話を向けます。髪の毛が50-200μm、細胞の大きさがそれよりも小さいくらいです。可視光の波長が、380〜780 nm = 3.8〜7.8×10-7 mです。水素原子の大きさがその10分の1程度の大きさの10-10 mです。 その下の構造は原子核ですが、ここで一気に10-15 mと5桁も小さくなります。
原子核を構成する陽子や中性子は、クォークとよばれるものでできていますが、これらは今のところさらに小さい構造が みつかっておらず、すなわち「点状」とみなされています。

究極的な微細スケールとして、基本的な物理定数を組み合わせてプランク長さというものが考えられますが、これは1.6×10-35 mです(ディスカッション参照)。

重さ(質量)でみる宇宙から素粒子

では同様に、重さのスケールを取り上げます。ところで、重さ(重量、単位:kg重)というのは、 実際には地球が物体を引く力、ということですが、これでは地球の外にまで適用することができません。 物理学では物質の量を表すために、質量とよび区別します。単位はキログラム[kg]です。
長さのスケール図
(クリックで拡大します)

人間の質量は100~2kgのオーダー(桁)です。 地球質量5.974x1024kg、太陽質量1.989x1030kg。 この2つは天文学ではそれぞれMearthMsolarという記号を用いてよく使われます。例えば月の質量は、0.0123Mearthです。
銀河系の質量は、この図では可視総質量として示しています。これは目で見える恒星の数から割り出したもので、2x1011Msolar 〜 4x1041kg程度です。

微小なものでは、水素原子核の質量(ほとんと陽子が担っています)は1.67x10-27kg、電子の質量が9.1x10-31kgです。電子は大きさは点状として扱われていますが、質量は有限なものが測られています。 電子や陽子の質量を表すのに、電子ボルト[eV/c2]という単位がよく使われます。1eV/c2は1.8x10-36kg

です。この単位については次の項を読んでください。

プランク長さと同様に、基本的な物理定数を組み合わせてプランク質量:2.2×10-8 kgが 導かれます。(ディスカッション参照)。

質量とエネルギー

アインシュタインは特殊相対性理論で、質量mとエネルギ−Eが等価なものであることを示しました。 これが
E = m c2
という式です。ここで、cは光の速度3 x108m/s のことです。このことは様々な実験で確かめられています。 たとえば、ウランの原子核が分裂したときに失われる質量がエネルギーにかわります。もしも1 kgの質量がすべてエネルギーに かわったとすると、
E = m c2 = 1 [kg] x (3 x108 [m/s])2 = 9 x1016 [J]
というとてつもないエネルギーになります。
宇宙や素粒子の性質をみるとき、しばしば、この関係を用いて質量とエネルギーを等価にあつかう方がやりやすいとき があります。このため、質量をエネルギー/光速度の2乗、つまり
m = E/c2
という表し方を導入します。電子など素粒子のエネルギーは、実験的には電位差と
素電荷e で測定することが多いので、
1 [eV/c2] = 1.6 x10-19[C] x 1 [V] / (3 x108 [m/s])2 = 1.8 x10-36 [kg]
という単位をよく用います。

代表的な定数

物理学、宇宙物理、天文などで よく使う定数を示します(別ウインドウで表示します。クリックしてください)

物質にはたらく力

物質の間には力が働いており、それによって引き合ったり(引力)、反発したり(斥力)します。 どのような力が働いているかが、物質の運動、反応を決めます。
また物質の階層により、力の現われかたも違います。電荷や磁気にはたらく電磁場の力を例にとると、 まずミクロな対象である素粒子のように、電荷をもった点状の粒子においては、 クーロン力やローレンツ力で記述できる場合が多いです。 しかし粒子が集まって数が増えてくると、多体系としての振る舞いがおこり、異なるレベルの 作用となって現われます。 原子が結合して分子を形成する場合、イオン結合、分子間力による結合、金属結合などがあります。 分子間に働くファン=デル=ワールス力は、分子の電荷分布がじっとしていずに
揺らぐことによって生じます 。 これらのように、系によって現われるさまざまな力や現象もたいへん興味深いものです。 さらに多くの物質、たとえば星くらいの量になると、電荷は中和されて電気的な力は働くなくなります。

このように自然界には、系によっていろいろな力がでてきますが、たとえば前述のようにファン=デル=ワールス力は つきつめてゆくと電磁気力です。 原子核内で陽子と中性子を結びつけている 核力 も、突き詰めると強い相互作用いう力であることがわかりました。現在、我々の世界には、4つの基本的な力があることが わかっています。

また、物質が力を及ぼし合うときは、一方通行ではなくて 相互におよぼしあう ことがわかっています。したがって、これらを「相互作用」とよびます。

4つの基本相互作用

初期宇宙と相互作用の進化

自然界に4つの基本的相互作用があることは説明しましたが、それではこの素粒子物理学の成果と宇宙の様子は、どのように関係しているのでしょうか? その答えの鍵は、初期宇宙にあります。

素粒子物理学では、ひとつひとつの素粒子に高いエネルギーを与えて衝突させたりして、内部の構造を探ってきました(高エネルギー実験)。 加速器や宇宙線をつかって、より高いエネルギーをあたえることにより、より深部の構造や、より短寿命の粒子や相互作用を探ることが できます。粒子に高いエネルギーを与えるのは、高い温度にするのと等価です。
一方で、我々の宇宙の物質が、とてつもなく高密度で高い温度だった時代があります。これがビッグバン直後の初期宇宙です。 初期宇宙がだんだん広がり、火の玉のような状態から冷えて星や銀河が形成されて現在の宇宙になります。 こうした研究が進むにつれて、初期の状態や、銀河の形成時期などを解明するには、素粒子物理学がとても大事であることが わかりました。
ところで一方、素粒子物理では、非常に高いエネルギーでは、4つの相互作用がひとつに統一されるのではないか、ということが 予想されました。宇宙の初期では、4つの相互作用は同じものであったはずなのです。


相互作用の分化と宇宙の進化(クリックで拡大します)

(現代の宇宙像 日本物理学会編より引用、着色)

しかし、どの時期(=ビックバンからどのくらいの時間がたって)に相互作用の分化がおこったのかは、その後の宇宙の進化を つかさどる重要な分岐点になります。こうしたことから、相互作用の統一論をめざす研究と、宇宙の進化の研究に密接な関連がわかってきたのです。これがこの講座「宇宙から素粒子へ」の重要なテーマのひとつなのです。

参考文献

ディスカッション

以下に議論の材料をいくつかあげてみます。(提出を要求するレポートではありませんが、興味があれば調べてみてください。また後の講義で解説されそうな話題でもあります。)

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